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最高裁判所第一小法廷 昭和28年(オ)586号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

上告理由第三点について。

薬事法において、薬局開設に当り、開設者が薬局の登録を受けなければならないこととしたのは、薬局における業務が保健衛生に重要な関係のあるものであることに鑑み、その業務を規整しその適正を図るため、業務主体(その業務が営業である場合は営業主)を特定し、薬局の業務につきその責に任ぜしめようとしたものに外ならない。従つて、自ら営業としてなす薬局の開設者として右登録の申請をした者は、上記の意味合において、薬局における営業主となることの意思を示したものというべく、また営業としてなす薬局開設の登録につき、開設者として自己の名義を使用することを他人に許容した者は、その他人が登録を申請したときは、その他人の登録申請を通じ、自己が当該薬局における営業主となることの意思を示したものというべきであつて、このことは、その登録が未だ完了していない一事によつて何ら異るところはない。そして、右後段の場合のように、営業としてなす薬局の開設者として自己の名義を使用することを他人に許容し、その他人が登録を申請した場合は、上記のとおり、その他人の申請を通じ、自己が当該薬局の営業者となることの意思を示したものと認むべきであるから、かかる場合は、商法二三条の「自己ノ氏名ヲ使用シテ営業ヲ為スコトヲ他人ニ許容シタル」場合に該当するものと解すべきである。

ところで本件において、原審の認定した事実によれば「成立に争のない甲第二、三号証によれば、朝日薬局開設後間もない昭和二六年二月中旬頃、被控訴人(被上告人)名義で所轄保健所に対して薬局開設並びに医薬品製造の各登録申請書が提出された事実を認めることができ」、そして「右甲第二、三号証に原審(第一審)並びに当審(第二審)における被控訴人(被上告人)本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を綜合すれば、右登録申請は、被控訴人(被上告人)が周船寺村民として村内に顔も広く、且つその経歴に徴し許可官庁に対する関係において被控訴人(被上告人)名義による方が都合がよいため、川浪の依頼によつて便宜上被控訴人(被上告人)名義を貸してやつた」ものであり、「被控訴人(被上告人)は訴外川浪の依頼により薬局開設並びに医薬品製造の各登録申請について一応被控訴人(被上告人)名義の使用を了承したのである」というのであつて被上告人は、本件薬局の登録申請に当り、その申請名義人として自己の氏名を使用することを訴外川浪フミ子に許容し、被上告人名義で登録申請がなされたというのであるから、右薬局の業務が営業である限りは、この場合が、商法二三条の場合に該当すると認むべきことは明らかである。従つて、右薬局の業務が営業である限りは、上告人が被上告人を本件薬局の営業主であると認めて本件取引をしたものであるときは、被上告人はその取引上の責任を負担すべきものであり、このことは、右訴外人が本件取引につき、本件薬局の経営主として被上告人名義を利用したかどうか、また被上告人が本件薬局の共同経営者ないしその単独経営者であつたかどうかによつて何ら影響を受くるものではない。殊に成立に争のない甲第一号証は、朝日薬局西田重吉(被上告人)名義の領収証であつて、かかる書証の存在は、右薬局が被上告人名義であることを窺わしめるに足るものである。しかるに、原審が上記の事実関係及び証拠につき、何ら首肯せしむべき説明を与えることなくして、原審の認定した事実関係から直ちに本件取引に関し商法二三条を適用する余地なしと判示したことは、右法条の解釈を誤り、ひいて審理不尽、理由不備の違法があるを免れず、論旨は理由があり、原判決はこれを破棄し、原審に差し戻すべきものである。

よつてその余の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条により、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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